2017年度
不定期に開催しています.講演によって 講演会場 (教室) や講演時間帯が変更となる場合があります ので,講演会に参加される際は各回の講演会場を良くご確認の上お越し下さい.また,講演会の世話人は毎回変わりますので,個別の講演会に関するお問い合せは担当の世話人宛にお願い致します.
2017年度の東京電機大学数学数学講演会は終了しました.講演者の皆様,ご参加いただいた皆様に厚く御礼申しあげます.
東京電機大学 東京千住キャンパス 5号館11階 51119B室
臼井 三平 氏 (大阪大学)
Log mixed Hodge theory and geometry / 対数的混合ホッジ理論と幾何学
A log mixed Hodge structure is an extension of a variation of mixed Hodge structure added by nilpotent orbits over boundary points of the parameter space. For a fixed Hodge type and a fan, these nilpotent orbits are well bound to make up a fine moduli of log mixed Hodge structure. Via integrals, we observe the relations between log mixed Hodge structure and geometry, such as monodromy, modular forms, Taylor expansions at base points at infinity, in the cases of elliptic curves and mirror quintic threefold. We have an advantage to use local coordinate centered at point at infinity.
対数的混合ホッジ構造とは,混合ホッジ構造の変動を,パラメーター空間の境界に冪零軌道を付け加えることによって拡張したものである.ホッジ型と扇という情報を指定すれば, その精密モジュライを構成できる.講演では,楕円曲線や5次超曲面のミラー多様体の場合に,積分を通して,対数的混合ホッジ構造と幾何学 (モノドロミー,モジュラー形式,無限遠におけるテイラー展開など) との関係が観察できることを説明する.無限遠点における局所座標が使える点が,対数的混合ホッジ構造の利点である.
世話人: 三鍋 聡司
東京電機大学 東京千住キャンパス 5号館11階 51119B室
郡田 亨 氏 (名古屋大学大学院多元数理科学研究科)
Lichtenbaum コホモロジーの Deligne-Beilinson サイクル写像
非特異射影的代数曲線の因子類群の次数ゼロ部分からヤコビ多様体への準同型であるアーベル・ヤコビ写像が同型であるというアーベルとヤコビによる定理は様々な方向へ一般化されている.複素数体上ではアーベル・ヤコビ写像は Deligne-Beilinson サイクル写像の制限として理解される.本講演では,エタール降下を満たすモチビック・コホモロジーである Lichtenbaum コホモロジーに Deligne-Beilinson サイクル写像を拡張し,その性質を調べる.例えば,因子類群の代わりにコンパクト台付きモチビック・コホモロジーを用いれば,アーベル・ヤコビの定理と Lefschetz の定理が任意の連結複素代数多様体について成り立つことがわかる.
世話人: 杉山 倫
東京電機大学 東京千住キャンパス 5号館 2階 5204セミナー室 (第1回,第2回の部屋と異なります!)
東京電機大学 千葉ニュータウンキャンパス 教育棟 (1号館) 4階 404教室 (テレビ中継)
工藤 桃成 氏 (九州大学大学院数理学研究院)
計算代数幾何学入門 —超特別曲線の決定・数え上げ問題を例に—
本講演は2部構成であり,前半では主に学生向けに講演者の研究分野の概要を紹介し,後半では講演者らによって最近得られた研究成果を発表する.
本講演の前半では,これから本格的に研究に取り組む学生を主な対象として,講演者の研究分野である計算代数幾何学 (Computational Algebraic Geometry) の紹介を主な目的とする.現代の情報化社会において,数学ソフトウェアは数学研究・教育のみならず幅広い分野において問題解決のツールとして汎用的になっている.数学ソフトウェアを利用した問題解決においては,数学的知見に基づくアルゴリズムの開発・改良・高速化が重要である.アルゴリズムを開発する分野の1つである計算代数幾何学では,代数幾何学における問題を解くための計算手法を研究する.本講演では,計算代数幾何学において基本的な道具の1つである「グレブナー基底」について概説する.また,講演者は一昨年〜昨年にかけて海外における数学ソフトウェア開発の現場で研究滞在を行ってきた.講演者が研究滞在において学んだこと (アルゴリズムの設計・運用や,計算機を活用する数学研究など) にも触れる予定であり,学生がこれから研究を進めるにあたっての参考になれば幸いである.
後半では,アルゴリズム開発の成果,数学ソフトウェア活用によって得られた成果として,(1) 代数多様体のコホモロジー群への Frobenius 作用の計算アルゴリズム,(2) 「超特別曲線」と呼ばれる特殊な代数曲線の (非) 存在性の決定・数え上げに関する結果,を紹介する.ここで超特別曲線とは,その Jacobian が超特異楕円曲線の直積に閉体上で同型となる非特異曲線のことである.1987年に Ekedahl は標数 p の完全体上の (非超楕円的) 超特別曲線が存在すれば,その種数を g とするとき 2g ≤ p2 - p を満たすことを示すとともに,「各素数 p ≥ 5 に対して種数 g=4 または 5 の超特別曲線は存在するか」という問題を提起した.講演者らは,種数 g=4 の (非超楕円的) 超特別曲線の決定問題をある計算問題に帰着させ,(1) を用いることで,これを解くための代数的アルゴリズムを開発した.さらに,そのアルゴリズムを計算代数システム上で実行することで「標数 p=7 では種数 4 の超特別曲線は存在しない」という結果を得たのでこれを紹介する.また,講演者らによる種数 4 の超特別曲線の (非) 存在性の決定・数え上げに関する研究の最近の進展状況も報告したい.なお,本講演で紹介する (2) は横浜国立大学の原下秀士氏との共同結果である.
世話人: 原 隆
東京電機大学 東京千住キャンパス 5号館11階 51119B室
森本 和輝 氏 (神戸大学大学院理学研究科)
次数 2 の Siegel モジュラー形式の L 函数の中心値の明示公式について
Boecherer は次数 2 の Siegel モジュラー形式に対して,スピノル L 函数の中心値と Special Bessel 周期とを結ぶ明示公式を予想した.この予想は楕円モジュラー形式の場合の Waldspurger 公式の一般化と考えられる.本講演では,Boecherer の予想の証明を与える.この結果は古澤昌秋氏(大阪市立大)との共同研究に基づくものである.
世話人: 並川 健一
東京電機大学 東京千住キャンパス 5号館11階 51119B室
佐久川 憲児 氏 (京都大学数理解析研究所)
ポリログに関する Zagier 予想の p 進類似物について
ポリログに関する Zagier 予想とは, 代数体の高次レギュレータ写像をポリログを用いて記述するというものである. この予想の弱いバージョン (WZPC) は de Jeu により解決されている. 2000年代前半に Besser と de Jeu は WZPC の p 進類似物を定式化し,部分的な結果を得た. 本講演では, Besser–de Jeu による WZPC の p 進類似物について概説し, 講演者が得た結果を紹介する.
世話人: 原 隆
東京電機大学 東京千住キャンパス 5号館11階 51119B室
大橋 久範 氏 (東京理科大学理工学部)
エンリケス曲面の自己同型とエントロピーについて
ここでのエントロピーというのは空間 X 上の自己写像 f に対して定義される,その写像の「複雑さ」を表す量であり,空間がコンパクトケーラー多様体の場合には f のコホモロジー作用を経由して計算することができる (Gromov-Yomdin theorem).X が代数曲面の場合には,現れるエントロピーは Salem 数という非常に特別な代数的整数と密接な関係がある.この講演では,エンリケス曲面上の自己同型写像について一般的にわかった事柄を説明し,エントロピーの分布問題への応用を紹介する.名古屋大学の松本雄也さんと,Jagiellonian 大学の S. Rams さんとの共同研究.
世話人: 三鍋 聡司
東京電機大学 東京千住キャンパス 5号館11階 51119B室
瀧 真語 氏 (東海大学理学部)
K3 曲面と対数的有理曲面
与えられた多様体が対称性を持っていれば,それはその多様体を調べる良い手がかりになるだけではなく,時にはより広い数学の姿を私たちに見せてくれることがあります.この講演では,K3曲面の対称性を表す有限自己同型とその商曲面についてお話ししたいと思います.
世話人: 三鍋 聡司
東京電機大学 東京千住キャンパス 5号館6階 5615教室 ( 第7回までの講演会場と異なります! )
甲斐 亘 氏 (東北大学大学院理学研究科)
高次チャウ群とチャーン類の,モジュラス付き理論について
高次チャウ群は,与えられた代数多様体の,閉部分集合の情報(代数的サイクル)を用いて定義されるコホモロジー理論である.スムーズな多様体に対しては,豊富な情報を含むことが既によく分かっており,重視されている.
「モジュラス付き」高次チャウ群は,スムーズ多様体に境界としての有効因子を与えて,境界付近で代数的サイクルに制約条件を課することで得られる新しい研究対象で,最近2014年に現在の形で定式化された.これが因子の重複度に依存する不変量であることは,代数的サイクル論者の注意を惹く.
本講演では,モジュラス付き高次チャウ群が,位相幾何の相対コホモロジーと同様の関手的性質を持つことを説明したのち,チャーン類とよぶ写像によって相対K理論と比較できることを述べる.
世話人: 杉山 倫
東京電機大学 東京千住キャンパス 5号館11階 51119B室
巴山 竜来 氏 (専修大学経営学部)
旗領域とホッジ理論
複素ベクトル空間の部分空間のフィルトレーション全体の集合を旗多様体といいます.これは射影空間やグラスマン多様体を一般化したもので,複素リー群が旗多様体に作用しています.この実形である実リー群による開軌道が旗領域です.例えば上半平面や対称領域,周期領域などが旗領域です.最近 Huckleberry 氏,Latif 氏と行っている旗領域についての共同研究を紹介し,またホッジ理論との関係についてお話します.
世話人: 藤澤 太郎
東京電機大学 東京千住キャンパス 5号館11階 51119B室
奥村 喜晶 氏 (東京工業大学理学院)
Rasmussen–Tamagawa 予想の Drinfeld 加群類似について
Drinfeld 加群とは正標数の体上定義された付加構造付きの群スキームであり,その数論的性質は楕円曲線のそれと多くの点で類似している.これに基づき,Rasmussen・玉川両氏が提唱したアーベル多様体の非存在性予想の類似が関数体上の Drinfeld 加群に対して成立するかどうかを考察する.この予想は「固定された代数体 K と正整数 g に対して素数ℓが十分大きいならば,ℓに関するある条件を満たす K 上の g 次元アーベル多様体は存在しない」ことを主張するもので,特にGRHを仮定すれば正しいことが知られている.本講演では Drinfeld 加群についての概説を行った後,予想の関数体類似は Drinfeld 加群の階数 がその定義体の非分離次数を割らないときは正しいことを紹介する.
世話人: 新井 啓介
東京電機大学 東京千住キャンパス 5号館11階 51119B室
松本 雄也 氏 (名古屋大学大学院多元数理科学研究科)
標数 p の K3 曲面への μp , αp 作用
標数 0 の K3 曲面に有限群が作用しているとします.群作用による商曲面は K3 曲面に双有理同値になる場合とならない場合がありますが,群作用が K3 曲面の2次微分形式を保つか否 かでこれを判定できることが知られています.
標数 p > 0 で群の位数が p で割り切れる場合には,この同値は一般には成り立ちません.一方で,標数 p においては位数 p の群スキームとして Z/p Z の他に μp , αp が存在し,これらによる作用や商を考えることができます.このことについて最近得られた結果をお話しします.
世話人: 中島 幸喜
東京電機大学 東京千住キャンパス 5号館11階 51119B室
小林 真一 氏 (九州大学大学院理学研究院)
保型形式の反円分岩澤理論
楕円型保型形式の反円分岩澤理論について解説する.とくに保型形式を反円分 Hecke 指標で twist させた値を補間する Bertolini-Darmon-Prasanna の p-進 L-関数の構成や,彼らの p-進 Gross-Zagier 公式について,比較的詳しく説明したい.また講演者による非通常素点においても成り立つような自然な定式化や理論構成を伝えたい.
世話人: 中島 幸喜
東京電機大学 東京千住キャンパス 5号館11階 51119B室
宮﨑 直 氏 (北里大学一般教養部)
無限素点における GL(3) × GL(2) の局所ゼータ積分の計算
GL(n) × GL(m) の保型 L 関数の無限素点における局所理論は Jacquet と Shalika によって整備されており,GL(n+1) × GL(n) の場合には,局所ゼータ積分は解析接続と局所関数等式を持ち,さらに局所 L 因子を局所ゼータ積分の有限和で表せることが知られている.
この講演では,Whittaker 関数の明示式を用いた計算によって,GL(3) × GL(2) の場合に局所 L 因子と一致するような局所ゼータ積分を見つけられるということを紹介する.本講演の内容は平野幹氏と石井卓氏との共同研究である.
三浦 崇 氏 (鶴岡工業高等専門学校基盤教育グループ)
総実代数体上の CM アーベル拡大のイデアル類群と Iwasawa–Sinnott 型の類数公式について
総実代数体 k 上の CM アーベル拡大 K のイデアル類群 (の p-成分) の (0次) Fitting イデアルを決定する問題についてお話しします.C. Greitherによって,K に1の p 乗根が含まれないという条件と同変玉河数予想 (の p-成分) のもと、イデアル類群の Pontryagin 双対の Fitting イデアルが決定されています.p の上の任意の素点が K/k で不分岐であり,1の p ベキ根が K に含まれない場合には,同変玉河数予想 (の p-成分) が成り立つことが A. Nickel によって示されており,C. Greither の結果と合わせてイデアル類群の Pontryagin 双対の Fitting イデアル が決定されることになります.
本講演では上の条件のもとで,ガロア群の p-成分の exponent が小さい場合にイデアル類群自身の Fitting イデアルを決定する研究についてお話しします.また,アーベル体における Iwasawa–Sinnott の公式を,この場合に拡張する研究についても具体例の計算を含めてお話しします.
世話人: 原 隆
東京電機大学 東京千住キャンパス 5号館11階 51119B室
Michele Torielli 氏 (北海道大学大学院理学研究院)
The connections between sectional matrices, generic initial ideals and free hyperplane arrangements
I will introduce the sectional matrix, which encode the Hilbert functions of successive hyperplane sections of the given ideal, and generic initial ideals. I will describe several results depending on the extremal behaviour of sectional matrices, that characterizes some geometrical behaviour of algebraic varieties. The sectional matrix and the generic initial ideal are powerful algebraic tools, we will see how they play an important role in the study of free hyperplane arrangements. Specifically, I will describe new characterizations of freeness for hyperplane arrangements and several consequences. This is joint work with A. M. Bigatti and E. Palezzato.
世話人: 中島 規博